冬眠



森の妖精ヤマネが
凍る森の懐に抱かれて
眠っている

ヤマネ一族は
そのちいさなからだで
果てしない地球の歳月を
生き延びて来た

人間たちが
爆弾を製造しているとき
ヤマネは
ばら色の肉球を震わせて
枝から枝へと舞い歩き
夏の花を探す

人間たちが
虚栄心を誇りと言い換えて
あこぎな取引に励むとき
ヤマネは
雪に埋もれた樹の洞で
か細い手足を丸めて
ながい冬に耐える

春が来て
目覚めたヤマネが
つぶらなオニキスの瞳で
森の息吹を確かめる頃
人間どもは
まだ
おろかな破壊のさなかに
いるだろう

聖バレンタインの日には
人間の男なんぞ
放っておいて

わたしは
ヤマネとその仲間達の
平穏と幸福を心から願う

神がデザインした
愛らしい姿で

眠れ眠れ
あどけなく安らかに
太古の森の奥深く










Silent night


こんな雪の夜に
聴こえるのは
空のかすかな溜息

濁った昼間の声と
荒っぽく軋む雑音で
倦んだ頭を
風にさらせば

この世の始まりから続く旋律が
群青の果てから
降りて来る

思い出せ
地上のすべては
歓びのために創られた

死と破壊を好む者たちが
どれだけ暴れても

雪と星とひかりを
紡ぎ出すしずかな指は

透明な世界の向こう側で
祝福の歌を奏でる

思い出せ
君もたしかに
あの翼に守られ
あの魂に愛されて

いまここに在るのだと











New Year Song


僕の心臓から生まれた鳥は
灰色の雲に追われ

君の掌から咲き出した花は
昏い出窓でうなだれている

悲しみと苛立ちに
覆われたこの星で

空々しい挨拶など
悪魔に食わせるしかないさと
誰かの低いしわがれ声

それでも僕は言おう

新しい年の始まりに
おそれず世界と向き合って
生命のパズルを楽しもうと

僕の鳥が緑の楽園で
赤く輝く果実を見つけ

君の花がひかりの方角に
顔を向けて歌い出す

そんな日が来るまで

とにかく
生き残ること

蒼い雪原のどこかに隠された
この世の秘密を解く
ちいさな金細工の鍵が

微かにきらめいて
君を待っている















雪の子守歌


疲れた人よ

今は静かに窓辺の椅子にもたれ
瞼を閉じて

雪の花片が奏でる歌を
聴きたまえ

懸命に生きて
なお悔いと苛立ちに
さいなまれる人よ

この星の底まで降りて
すべてを忘れ
眠りたまえ

弱々しく怯えたまま
儚く消えてゆこうとする人よ

あしたは
きっぱりと美しい棘を持つ
真紅の薔薇として
眼を覚ませ

誠実ゆえに
傷つき倒れかけた人よ

永遠から永遠へと
絶え間なく
生命の糸を紡いでいる
見えざる掌に包まれて

この冷たく白い夜に
清められた心音を
透きとおる風の旋律を

聴きたまえ










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