PART 2PART 3



冬ごもり

冬が近づくと
眠くなる

思いきり
阿呆な顔して

ユキウサギのように
あどけなく
フキノトウのように
ほろにがく

とろけるほど眠ろう
昏い春が地を覆うまで










飛ぶ女

キューバ女子バレーボールチームに


褐色の鳥が
ドレッドヘアをうねらせ
宙を飛ぶとき

彼女は恋を忘れ
因習を忘れ
笑顔を忘れ
自らの猛々しささえも
忘れてしまう

カリブの陽光に
灼かれて跳ねる
人食い魚より
しなやかに

ボールを追って
はじける女たち

男の気をひく微笑より
幼児を愛しむ瞳より
美しくあざやかな
その羽ばたきに

太古の森の彼方から
烈しい風が吹いて来る








通り過ぎたものは


こころがとても
疲れていると
過去へ過去へと
ひっぱられる

現在がひどく

色あせて見える
この逢魔が刻を
やり過ごして

何があろうと

むかしより
いまが美しい

通り過ぎたものは
放っておけと

眠りたがる心臓を
叩いて風を入れるのだ







アイスダンス

季節が巡り
氷の国の
姫君と騎士たちが
帰って来た

昏い夜の庭で
互いの失敗を
ののしり合い
いがみ合いながら

白いライトに
照らされると
真昼の虹より
綺麗なふたり

なごやかさから遠く
ぶつかり合い
傷つけあうカップルこそが
大きなダイヤのように
燃え輝くという逆説

愛と呼ばれるものが
いたましく
謎めいて
胸に刺さる冬が来た












聖夜


十二月の凍った夜に
ひとりで街を歩いていると
青い服を着たサンタが
私に声をかけた

    ともだちの多い人が
    えらい人なんて
    アザラシも
    笑ってしまう嘘さ

十二月の静かな夜に
ひとりで紅茶を飲んでいると
金の眼をした天使が
私に教えてくれた

    ともだちが
    見つからなくても
    だいじょうぶ
    君の最良の友は
    君自身なんだから

十二月の聖なる夜に
ひとりで過ごす人々は見るだろう
大いなる者のひそやかな腕が
やさしく空の上に在るのを















COLORS 3


レタスグリーン
青虫のベッドを揺らさないで

キングフィッシャー
空を映す水底には鳥たちの棺

クリムゾン
八十歳の赤頭巾ちゃんに贈る花束

テラコッタ
博物館には精霊の家族が住んでいる

マスタード
この色が似合うなら悪魔かもしれない

ラピスラズリ
群青の果てに還る金の砂 銀の霧

チェスナットブラウン
日曜日にはマロンタルトを焼く

バイオレット
アンドロギュヌスの夜会服を盗んだのは誰

モスグリーン
古代の羊歯の丘で想う永遠










For You



ティファニーも

ヴィトンも
エルメスも買えそうにない
僕だけど

イブの夜には
君の髪を洗ってあげるよ

君の頭のなかにくすぶる悲しみと

僕の指先に染み付いた世渡りの苦さ

すべてを優しく洗い流して
イルカのように戯れよう

僕はシャンプーの魔術師で

君の真直ぐな髪に虹を踊らせ
キリストが愛した薔薇の香油をそそぐのさ


何もいらないと言う控えめな君に
つつましい僕のこの願い


クリスマスの朝には
君の瑞々しい髪が
オーロラのように輝くだろう










夢の中で

夢の中で
大嫌いな相手と
優しく語り合った

夢の中で
憎くてたまらない人と
微笑みを交し合った

夢の中で
二度と逢いたくないやつと
眼を閉じて抱き合った

夜の夢の中では
もうひとりの私が

しあわせに
まろやかに
生きている








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