たましい
たましいは
こころとは
別のもの
たましいは
こころよりも
残酷で大胆
たましいは
真実を決して
忘れない
臆病なこころと
つめたい脳みそを
ひき裂き砕いて
たましいが
獰猛な声をあげる
夏至の夜
ひとは迷い慌てて
あばれる
たましいを
押さえつけ
封じ込め
そんなものは
ないよと
枯草を煎じた
茶など飲んでみる
MONEY SONG
お金がないと
何にも買えない
愛も 車も 時間も
お金がないと
父さ母は殺し合い
子供らは凍えて
ハイエナに食われる
お金がないと
歌を忘れ
色彩を怖れ
希望を憎み
すべてが枯れる
お金 お金 お金
気まぐれな美男のごとく
みんながこんなにも
焦がれているのに
情け知らずのお金
大切なのは心だと
叫んだ紳士は
妻に棄てられ
昨日 餓死した
少女たちは
偽札に埋もれて
昼寝するうち
病気になった
お金 お金がないと
この島にすむひとは
声をあげて泣くだろう
その声の弱さ虚ろさに
空の果てから
鳥たちの哀れみが降る
緑の谷
あかるい緑の季節に
人々は西へ向かって
歩いて行った
あと少しで
もう一歩で
楽になる
かぐわしい蜜のあふれる
約束の地が見えると
信じながら
蒼い仮面の道化師に
騙されて踊らされて
泥水に足をとられながら
たどり着く先には
砂漠が広がり
険しく昏い山脈が
口を閉ざして佇むだろう
本当のことばかり言うので
嫌われ者の僕だから
容赦なく言おう
絶望こそ大切なのだと
壊れた玩具のような
夢や希望は砂に埋めて
やすらぎの
緑の谷へ行く道は
自分ひとりで
探し抜くしかないのだと
熱病
祭がなけりゃ
やってられないさ
こんな退屈な人生
我慢ばかりの日々
金色の麦酒が
黄昏の光に弾け飛び
誰もが叫んでいた
凍っていた血が
流れ出し脈打ち
燃え立って
生きていて良かったと
つぶやく君の
蒼く染まった顔の内側に
いつもの暮らしの
寂寥と不安が
透かし編みのように映る
野蛮で高貴な病に
侵食されて酔い潰れ
祭が終わって
哀しくなった人々が
それぞれの場所に戻る頃
北半球に
本物の夏が来る
夏の庭
雨があがった
夏の庭に
謎めいた贈り物のような
子猫がひとり
人間たちは
宴が果てたら
どうやって生きて行こうかと
心もとないのに
子猫は
翡翠色に揺れる葉脈と戯れては
眩しい空を見上げている
いつもいつも
過去を悔い未来を憂える
人間たちを
不思議そうに眺めては
黄昏の帳に溶けて行く子猫に
今を生きる秘訣など
お伺いしてみたい
考え過ぎずに
湿った土の中から
精霊を呼び出すのさと
言われても
アンモナイトだった頃の
やすらかな夢は忘れてしまった
雨に磨かれて光る庭で
ひとり跳ねる子猫
魔術のように
儚く懐かしく
水の記憶
午後のなまぬるい水が
セラミックの蛇口から滴って
忘れていたはずの君が
指先から冠動脈を伝い
流れて行った
夏は突然
埋葬した記憶を
思い出させて
過去のすべてが
もうひとつの世界では
何食わぬ顔で
生き続けていることを
知らせてくれる
燃え上がらず
沈んで渦巻いて
別々の海へと注いで行った
君と僕の秘密の粒子
愛していたとか
いなかったとか
いまは考える気もなく
二度と会うはずもないのに
水に手を浸すと
君が蘇って
渇いた僕の中をゆっくり流れる
君と僕の
まぼろしの水は
無神経な太陽を避けて
北の海へとたどり着き
蒼い流氷と交わる夢を見るだろう
Strange Summer
君は金塊を探すために
歩いてる
美を見出すためでは
なくて
あなたは眼をそむけ
逃避する
笑えるほど壊れて腐食した
現実に耐えられず
みんなが怯えながら
魔王に支配されるのを
待っている
虐げられることの快楽は
愛よりも大切だ
陰り行く太陽に
人々は生命を重荷と
感じるほど弱り果て
わたしは屋根裏で
視神経を砥ぎながら
苦いハーブティーを
瑠璃の器にそそぐ
彼方の空に光る
夏の暗号を解くために