PART 1PART 3




たましい


たましいは
こころとは
別のもの

たましいは
こころよりも
残酷で大胆

たましいは
真実を決して
忘れない

臆病なこころと
つめたい脳みそを
ひき裂き砕いて

たましいが
獰猛な声をあげる
夏至の夜

ひとは迷い慌てて

あばれる
たましいを
押さえつけ
封じ込め

そんなものは
ないよと
枯草を煎じた
茶など飲んでみる














MONEY SONG



お金がないと
何にも買えない
愛も 車も 時間も

お金がないと
父さ母は殺し合い
子供らは凍えて
ハイエナに食われる

お金がないと
歌を忘れ
色彩を怖れ
希望を憎み
すべてが枯れる

お金 お金 お金
気まぐれな美男のごとく
みんながこんなにも
焦がれているのに
情け知らずのお金

大切なのは心だと
叫んだ紳士は
妻に棄てられ
昨日 餓死した

少女たちは
偽札に埋もれて
昼寝するうち
病気になった

お金 お金がないと
この島にすむひとは
声をあげて泣くだろう

その声の弱さ虚ろさに
空の果てから
鳥たちの哀れみが降る
















緑の谷



あかるい緑の季節に
人々は西へ向かって
歩いて行った

あと少しで
もう一歩で
楽になる

かぐわしい蜜のあふれる
約束の地が見えると
信じながら

蒼い仮面の道化師に
騙されて踊らされて
泥水に足をとられながら

たどり着く先には
砂漠が広がり
険しく昏い山脈が
口を閉ざして佇むだろう

本当のことばかり言うので
嫌われ者の僕だから

容赦なく言おう
絶望こそ大切なのだと

壊れた玩具のような
夢や希望は砂に埋めて

やすらぎの
緑の谷へ行く道は
自分ひとりで
探し抜くしかないのだと














RAIN SONG



紫陽花の花が咲く頃は
私の心も色を変える

梅雨冷えの長い雨が
針水晶のように降りそそぐ午後は
私の想いも流れ流れる

変わってはいけないと説教する石頭どもを
飲み込み押し流し
地から天へと駆け巡る
烈しい水の輪舞

よどみやすい体と
枯れかかる魂に
ほそい剣のように刺さる雨のなか

七色に変われ
流れ行け

ただ自由のみを欲する
私のこころ

水無月の雨に洗われて
すべてを忘れ透きとおる
















熱病


祭がなけりゃ
やってられないさ
こんな退屈な人生
我慢ばかりの日々

金色の麦酒が
黄昏の光に弾け飛び
誰もが叫んでいた

凍っていた血が
流れ出し脈打ち
燃え立って

生きていて良かったと
つぶやく君の
蒼く染まった顔の内側に

いつもの暮らしの
寂寥と不安が
透かし編みのように映る

野蛮で高貴な病に
侵食されて酔い潰れ

祭が終わって
哀しくなった人々が
それぞれの場所に戻る頃

北半球に
本物の夏が来る











夏の庭


雨があがった
夏の庭に
謎めいた贈り物のような
子猫がひとり

人間たちは
宴が果てたら
どうやって生きて行こうかと
心もとないのに

子猫は
翡翠色に揺れる葉脈と戯れては
眩しい空を見上げている

いつもいつも
過去を悔い未来を憂える
人間たちを
不思議そうに眺めては
黄昏の帳に溶けて行く子猫に

今を生きる秘訣など
お伺いしてみたい

考え過ぎずに
湿った土の中から
精霊を呼び出すのさと
言われても

アンモナイトだった頃の
やすらかな夢は忘れてしまった

雨に磨かれて光る庭で
ひとり跳ねる子猫

魔術のように
儚く懐かしく












水の記憶


午後のなまぬるい水が
セラミックの蛇口から滴って

忘れていたはずの君が
指先から冠動脈を伝い
流れて行った

夏は突然
埋葬した記憶を
思い出させて

過去のすべてが
もうひとつの世界では
何食わぬ顔で
生き続けていることを
知らせてくれる

燃え上がらず
沈んで渦巻いて
別々の海へと注いで行った
君と僕の秘密の粒子

愛していたとか
いなかったとか
いまは考える気もなく
二度と会うはずもないのに

水に手を浸すと
君が蘇って
渇いた僕の中をゆっくり流れる

君と僕の
まぼろしの水は
無神経な太陽を避けて
北の海へとたどり着き

蒼い流氷と交わる夢を見るだろう















スローライフ


ペパーミントグリーンの光線に溶けて
うっとりする水無月の午後

生きる意味がわからないと
ひからびた細胞に
蒼黒い目玉を埋め込んだ少年が
私の庭に入りこむ

今まで一度も
この世にいられて幸せだと
思ったことがないのだと
窓を叩く

Baby Baby Baby
とても不幸で窮屈な君に
何も贈ることは出来ないけれど

私と一緒に
ひんやりした空気を飲んだり
夏に備える植物たちの呼吸を聴いたり
昼寝猫のふるえる耳を眺めたり

壊れかけた地上の一瞬一瞬が
自由な至福のときであることを
感じてみる気はないかい

動きまわるのでもなく
考え詰めるのでもなく
つかのまの平和と
ちいさな永遠を
ゆっくり味わってみたらどうだい

少年が腹を立てたような顔で去ると
猫が思いきり伸びをして
ガーベラの茎が揺れ

丘の浄水場の上に
真珠色の雲















三匹の猫


夕暮れ時に屋根の上で
歌う灰白の猫

親に捨てられ兄弟に去られ
人間に虐められて来たけれど
俺は生きることが好き
死にたがる奴の気がしれない

真夜中に錆びた門柱の角で
踊る漆黒の猫

人間どもは気の毒に
たぶらかされて怒りも忘れ
悪魔の飴細工を頬ばって夢を見る
舌が痺れても目覚めない

夜明け前に樹のてっぺんで
笑う金縞の猫

あたしに見えるものが見えず
あたしに聞こえる声が聞こえない
そのくせ自惚れている人間たちに
本当のことをわからせる術がない


人間には人間の運命
猫には猫の道

何も悟れないまま
人間たちが滅びたとしても
猫は静かに生きて行く
ぐるるるぅぐるるるぅ














Strange Summer



君は金塊を探すために
歩いてる
美を見出すためでは
なくて

あなたは眼をそむけ
逃避する
笑えるほど壊れて腐食した
現実に耐えられず

みんなが怯えながら
魔王に支配されるのを
待っている
虐げられることの快楽は
愛よりも大切だ

陰り行く太陽に
人々は生命を重荷と
感じるほど弱り果て

わたしは屋根裏で
視神経を砥ぎながら
苦いハーブティーを
瑠璃の器にそそぐ


彼方の空に光る
夏の暗号を解くために










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