PART 2PART 3


童話

生きてることって
楽しいですか

ウシさんから

手紙が来た


はちみつと

おひさまと

青い葉っぱの

においがあれば


クマさんが

返事を書いた


ブナの樹かげの

茶色いポストに

投函すると

うちへ帰って

ゆっくり昼寝した


ウシさんは

返事を読んで
首を横に振り

それから

しずかに

河で水浴びをした






      


COLORSー1


ミントグリーン
すきとおった   つめたい夏のグラス

ストローイエロー
死んだシロとの散歩にかぶったあの帽子

セレストブルー
青い絹のパジャマを着て眠りたい

プラム
すももももももトマトとはアカの他人

インディゴ
おばあちゃんはジーンズが好き

タンジェリンオレンジ
遠い夕日を見に坂道をゆっくり歩く

ピジョングレー
本物のお嬢さまの三月のコート

アイボリーブラック
黒の似合う女でなくてよかった

オータムリーフ
黄金の秋の光が降る庭に人形の死体

ローズピンク
あまく溶けてゆく夢のなかの棘












                    リベルタンゴ 



これは悪魔の音楽

踊るたびに

毒が体にまわる


ひとりでは

つらすぎる

ふたりでは

気がふれる


手の血を飲み干しても
いやされない恋の毒


鳴り響くタンゴ

南国の美しい病










新宿キャッツ


月から来た猫たちが
歌舞伎町のビルの上で
眠っている

なわばり争いや恋や雨や
さびしい人間たちのお相手で
忙しい一日の終わりに
夢を見ている

人間だった頃は
いつも疲れてた
猫になっても
甘くはないね

食べて寝て死んで
生まれ変わっての
くり返し

とっておきのエサを運んでくれる
髪を金色に染めた
あの姐さんも
前世では美しい猫だった

猫は何でも知ってる
猫は死ぬのを怖れない
猫は全身で世を渡る


路地のちりにまみれ
月の光に清められ
猫たちが夢を見ている

ヒマラヤの峰に咲く
青いけしの花に
生まれ変わる日を











五感


風の温度を感じたり
草の匂いにむせたり

トマトをかじった瞬間
夏休みの朝のうれしさを
思い出したり

美しいひとの
ちょっとしたしぐさに
心臓がしめつけられたり

午後のラジオから
好きだった古い歌が流れて
もの哀しくなったり

そんなささやかなことが
ふりつもって
生きることの意味が
創られて行くと

子供たちに
誰も伝えなかったので

地上から
歓びは失われ

どうぞ
おからだをたいせつにと

木立の上から
物知りなシマフクロウの
声がするのだ











月の娘


血はのろのろ流れ
こころはこわばり

交感神経は波打ち
副交感神経はよどみ

鳥のように
鹿のように
魚のように
自由だった祖先の遺伝子は
鉛の針で
リフォームされた

何が欲しくて
何が恐くて
こんなにも
かわいているのか

津波に呑まれる前に
おちついて髪を洗おう

地上にやって来るときに
胸に刻んだ願いごとを
思い出せたなら

血は透きとおり
こころは溶けてゆく















ナルシス・ブルー



きらめく初夏の
大気のなかに
ゆきかいさざめく
ナルシスたち

この世でいちばん
かわいいのは
この世でいちばん
いとおしいのは

決まってるさ
自分の顔
誰もが持ってる
魔法の鏡

鏡よ鏡
ウィンドウにグラスに
微笑むナルシス

とても楽しいのに
かなり幸せなのに
ときどき吹いて来るブルーな風

自分よりも大切なひとは
自分よりも愛しいものは
世界のどこにも
見つからない

逢魔が刻に
ふと立ちすくむナルシスたちに
鏡がささやく

だいじょうぶ
魔法は終わらない
自分だけを愛して
自分だけを大切に
かろやかに生きなさい

気がつくと
空も道路もぴかぴか光って

ナルシスたちの毛穴から
立ちのぼる青いオーラが
高層ビルを染めあげる















翡翠の雨



翠の雨が降る六月

心が壊れて泣く男がいた
神話が失われて沈む男がいた

人々は目をそらして
忙しげに動きまわり
忘れたふりをした

雨が街に犬に海にそそがれ
黒ずんだ若葉が震えて
ゆっくり息を吐く六月に

椅子をなくした男たちが
石のようにたたずむ

見えない何かに
裏切られ凍りつき
取り残されて

誰でもいつかは
こんな目に会うのか
それとも俺だけ

男たちは考える

石のままで居ようか
あの恐ろしい測りがたい人生に
もう一度だけ戻ろうか

翡翠の雨に打たれて





















僕の頭上にある雲は

世間の役に立つ人間になりたいと
思えば思うほど

鈍色に重く広がって行く


僕の胸底にある海は

誰かを喜ばせる人間でいたいと
願えば願うほど

昏く荒れて波立ってしまう

それで突然
悪党になることにした
自分のことしか考えない奴に

でも僕の脳髄に降る雨は

愛が愛を愛だけ愛こそと
わけのわからない呪文を
呟いては滴り落ちるので

僕は風邪をひき

遠い国へ行って虹を見たくなった















いいひと


いいひとは
誰にでも優しい

いいひとは
決して激怒せず

いいひとは
たやすくだまされる

いいひとは
仲間と友情が好きで

いいひとは
憎むことが苦手

いいひとは
悪いひとを許したりする

悪の力がどんなに強いか
いいひとは知らない

気がつくと地上を
のし歩いているのは
悪いひとばかりで

いいひとは
まばたきする間に殺され

いいひとたちの屍は
黒い鳥についばまれる













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