童話
生きてることって
楽しいですか
と
ウシさんから
手紙が来た
はちみつと
おひさまと
青い葉っぱの
においがあれば
と
クマさんが
返事を書いた
ブナの樹かげの
茶色いポストに
投函すると
うちへ帰って
ゆっくり昼寝した
ウシさんは
返事を読んで
首を横に振り
それから
しずかに
河で水浴びをした
COLORSー1
ミントグリーン
すきとおった つめたい夏のグラス
ストローイエロー
死んだシロとの散歩にかぶったあの帽子
セレストブルー
青い絹のパジャマを着て眠りたい
プラム
すももももももトマトとはアカの他人
インディゴ
おばあちゃんはジーンズが好き
タンジェリンオレンジ
遠い夕日を見に坂道をゆっくり歩く
ピジョングレー
本物のお嬢さまの三月のコート
アイボリーブラック
黒の似合う女でなくてよかった
オータムリーフ
黄金の秋の光が降る庭に人形の死体
ローズピンク
あまく溶けてゆく夢のなかの棘
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リベルタンゴ
これは悪魔の音楽
踊るたびに
毒が体にまわる
ひとりでは
つらすぎる
ふたりでは
気がふれる
相手の血を飲み干しても
いやされない恋の毒
鳴り響くタンゴ
南国の美しい病
新宿キャッツ 月から来た猫たちが
歌舞伎町のビルの上で
眠っている
なわばり争いや恋や雨や
さびしい人間たちのお相手で
忙しい一日の終わりに
夢を見ている
人間だった頃は
いつも疲れてた
猫になっても
甘くはないね
食べて寝て死んで
生まれ変わっての
くり返し
とっておきのエサを運んでくれる
髪を金色に染めた
あの姐さんも
前世では美しい猫だった
猫は何でも知ってる
猫は死ぬのを怖れない
猫は全身で世を渡る
路地のちりにまみれ
月の光に清められ
猫たちが夢を見ている
ヒマラヤの峰に咲く
青いけしの花に
生まれ変わる日を
五感
風の温度を感じたり
草の匂いにむせたり
トマトをかじった瞬間
夏休みの朝のうれしさを
思い出したり
美しいひとの
ちょっとしたしぐさに
心臓がしめつけられたり
午後のラジオから
好きだった古い歌が流れて
もの哀しくなったり
そんなささやかなことが
ふりつもって
生きることの意味が
創られて行くと
子供たちに
誰も伝えなかったので
地上から
歓びは失われ
どうぞ
おからだをたいせつにと
木立の上から
物知りなシマフクロウの
声がするのだ
月の娘
血はのろのろ流れ
こころはこわばり
交感神経は波打ち
副交感神経はよどみ
鳥のように
鹿のように
魚のように
自由だった祖先の遺伝子は
鉛の針で
リフォームされた
何が欲しくて
何が恐くて
こんなにも
かわいているのか
津波に呑まれる前に
おちついて髪を洗おう
地上にやって来るときに
胸に刻んだ願いごとを
思い出せたなら
血は透きとおり
こころは溶けてゆく
ナルシス・ブルー
きらめく初夏の
大気のなかに
ゆきかいさざめく
ナルシスたち
この世でいちばん
かわいいのは
この世でいちばん
いとおしいのは
決まってるさ
自分の顔
誰もが持ってる
魔法の鏡
鏡よ鏡
ウィンドウにグラスに
微笑むナルシス
とても楽しいのに
かなり幸せなのに
ときどき吹いて来るブルーな風
自分よりも大切なひとは
自分よりも愛しいものは
世界のどこにも
見つからない
逢魔が刻に
ふと立ちすくむナルシスたちに
鏡がささやく
だいじょうぶ
魔法は終わらない
自分だけを愛して
自分だけを大切に
かろやかに生きなさい
気がつくと
空も道路もぴかぴか光って
ナルシスたちの毛穴から
立ちのぼる青いオーラが
高層ビルを染めあげる
翡翠の雨
翡翠の雨が降る六月
心が壊れて泣く男がいた
神話が失われて沈む男がいた
人々は目をそらして
忙しげに動きまわり
忘れたふりをした
雨が街に犬に海にそそがれ
黒ずんだ若葉が震えて
ゆっくり息を吐く六月に
椅子をなくした男たちが
石のようにたたずむ
見えない何かに
裏切られ凍りつき
取り残されて
誰でもいつかは
こんな目に会うのか
それとも俺だけ
男たちは考える
石のままで居ようか
あの恐ろしい測りがたい人生に
もう一度だけ戻ろうか
翡翠の雨に打たれて
虹
僕の頭上にある雲は
世間の役に立つ人間になりたいと
思えば思うほど
鈍色に重く広がって行く
僕の胸底にある海は
誰かを喜ばせる人間でいたいと
願えば願うほど
昏く荒れて波立ってしまう
それで突然
悪党になることにした
自分のことしか考えない奴に
でも僕の脳髄に降る雨は
愛が愛を愛だけ愛こそと
わけのわからない呪文を
呟いては滴り落ちるので
僕は風邪をひき
遠い国へ行って虹を見たくなった
いいひと
いいひとは
誰にでも優しい
いいひとは
決して激怒せず
いいひとは
たやすくだまされる
いいひとは
仲間と友情が好きで
いいひとは
憎むことが苦手
いいひとは
悪いひとを許したりする
悪の力がどんなに強いか
いいひとは知らない
気がつくと地上を
のし歩いているのは
悪いひとばかりで
いいひとは
まばたきする間に殺され
いいひとたちの屍は
黒い鳥についばまれる