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ドリー


どこから来たの
子羊のドリー

お母さんが欲しいの
さびしそうなドリー


鳥も猫も象も
生まれた時は
家族が居るのに

おまえは
人間の都合て゛
人間のためだけに
造られた

何を考えているの
しずかなドリー

はかない命の意味が
わからなくても
嘆くことはない

やがて
この星は
おまえと同じ眼をした
人間たちで
いっぱいになる












カプセル


片想いと
アレルギーと
毒と暴力とウィルスと

私を不安にさせる
すべての危険なものから
できるだけ
遠く

窓という窓を閉めて
カプセルの中で私は眠る

ある朝
眼が覚めると
世界は清められ
ばら色の光に照らされて
空気を吸うだけで心が弾む
生まれたての私

そんな夢を
何度も見る
透明なカプセルに
ゆられながら














COLORS 2


シェルピンク
われやすい人魚の耳飾りひとつ

ナルキッソス

ひんやりと胸にゆれる金のクルス

アイスグリーン
オーロラの下でペンギンの兄弟が歌う

ダンデリオン
春の野原に天使たちの散髪のあと

ミッドナイトブルー
夜の森には龍が眠っている

マルベリー
さびしい王様のビロードのマント

メイプルシュガー
ひいおじいさんの手彫りのステッキ

シーフォッグ
夏の港にタイタニックの幻影

オーキッドピンク
ひとりで祝う誕生日 花明りの中








守護天使


君のことが
気になるんだ

あんまり辛いので
うまく忘れたふりを
して来たのに

君の昔の写真を見て

とり返しのつかない
不幸に襲われた気分

僕の知らない
弾けそうに若く清らかな君

君の隣に居るのは
いつだって
僕ではない誰かなんだ

君なんか

死んだ方がいい

死んだ方がいい

死んだ方がいい

いくら念じても
君は生き続けて
年をとって行く

何十年か先に

僕ではない誰かと暮らす君を
僕よりも長く
地上に居るだろう君を

かわいい幸福な老人に

なれるよう
守ってあげる天使になっても

君は僕を知らないんだ










春の棘

何がこんなに
かなしいのだろう

花曇りの三月の空が
薄情な乾いた風を連れて来て
私は一日に七つも年をとる

鋼のこころをこじあけて
春の棘がきらきら降りそそぎ

思い出せない夢
思い出したくない望みを
意地悪く細胞膜にプリントしては
楽しげに小枝をゆらす
したたかな弥生の吐息

かなわなかった願いや
ふみにじられた憧れを
抱きしめて暮らせと
ささやいては遠ざかる
ひいなの季節に

私は猫じゃらしの冠を編み
夏を待つ













思春期


少年は震えがちな
うすい胸の内側に
少女を飼っている

ときおり
少女は牙をむいて
少年の瞳の中に
魔物を呼び出す

男でも女でもなく
陽炎のように
ゆれる髪のピクシー

ある日
少女が死ぬと
少年は犬になる

踊ることを忘れ
地面しか見えない
おだやかな日々が始まる















戦争



晴れた日に
笛吹きが去ったあと
人影のない街を
熊ん蜂の群れが飛び
老人たちは
すべての窓を閉ざした

笛吹きは野山を越えて
海へ入って行き
たくさんの子供らが続いた

子供らがひとり残らず
タコに食われるのを
見届けると

笛吹きは岸に戻り
服が乾くまで
高らかに歌った

気がつくと
世界には
笛吹きしか
居なかった
















HEAVEN




天使が
凍えたハートを
配っていた

金色の雲の下から
無数の手が差し出され

天使は思いつめた瞳に
赤い眼薬をさして
汗をふいた

空の奥の高い所で
神はワインを飲みながら
天使の働きぶりに
うなずいて微笑した

手に大きな鎌を持つ
その神の頭上に
灰色の穴が開き

吸い込まれて行くのは
誰なのか
待っているのは
何なのか

天使が知るはずもない











フェイク


本当の自分を
見つけなさいと
ドクターは言う

他人の評価を気にせずに
ブランド物を頼らずに
やりたい事をやりなさいと

それで
彼女は困り果て
香を焚きしめた部屋で
ふかく深く眠った

眼が覚めると
窓の外は廃墟となり
月と星が落ちて

傾いた世界の
静けさのなかで
彼女は少しだけ
やすらいだ

つめたい闇の中に
ながいながい
彼女のあくび















ペットロス



飼い猫の桃子が死んで
Kさんは拒食症になった

親が死んだ時より
こたえたと泣く

桃子は小さな金茶色の猫で
裏庭の蕗の葉陰で
お昼寝するのが
好きだった

人間なんか
どうでもいいのと
Kさんは
いちおう人間である私に言う

男友達も
桃子のかわりには
ならないと
腫れて細くなった眼で
訴える

この世でこんなにも
深く愛することの
できる相手が居たならば
その幸運は耐えがたく

愛を知るKさんは
猫のように体を丸めて
動かない

窓を開けると
蕗の葉っぱが青く
さわさわゆれた














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